金融商品に申し込みをする場合、あらゆる国でFATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)について確認されます。銀行口座開設や証券口座開設、保険加入を含めて、「あなたはアメリカ国籍をもっていますか?」と必ず聞かれます。

この理由としては米国のFATCAがあります。要は、アメリカ人は海外の金融商品を購入することができません。

脱税防止のためにアメリカが作った制度がFATCAです。ただ実際には、アメリカ国内にあるアメリカ人の資産を海外に移動させないようにするための制度といえます。アメリカ国外にある優れた金融商品を購入できないため、アメリカ人にとってデメリットばかりの制度です。

それでは、FATCAとはどのような制度になっているのでしょうか。また、FATCAを回避することはできるのでしょうか。ここでは、アメリカ人にとって金融商品の購入や口座開設で重要なFATCAについて解説していきます。

アメリカ人は海外の金融商品を買えない

アメリカ国籍をもつすべての人は海外の金融商品を購入することができません。証券会社で口座開設をしたり、保険会社で生命保険に加入しようとしたりしても断られます。この理由がFATCAです。

2010年に施行された法律がFATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)です。「スイスの国際金融機関であるUBSがアメリカ人の資産を海外に移したり、租税回避をしていたりすることが判明した」という事実を受けてFATCAが施行されました。

スイスは税金がほとんどないタックスヘイブン(オフショア地域)として知られています。こうしたタックスヘイブンには、アメリカよりも優れた投資商品がたくさんあります。

そのためアメリカ人はかつて、積極的にオフショア投資を利用していました。アメリカでの納税義務は発生するものの、無税の地域で資産運用した方が効率的にお金が増えるからです。

しかし、いまはFATCAによってアメリカ人はタックスヘイブンで販売されている投資信託や生命保険を購入することはできません。

銀行口座開設ですらアメリカ国籍の人は難しい

弊害はそれだけではありません。アメリカ人の場合、海外で銀行口座を作ることでさえ厳しくなっています。

非居住者の外国人であっても、銀行口座開設を受け付けている国はいくつかあります。そうした国であっても、アメリカ人の場合は例外的に口座開設できません。世界中、すべての銀行がFATCAに従うため、口座開設を断られるのです。

FATCAによって、アメリカ人を顧客にもつ場合は米国人の資産や取引内容を米国内国歳入庁(IRS)に報告しなければいけません。そのため金融機関は面倒に感じ、アメリカ人の顧客を最初から断るのです。

より正確にいうと、一部の銀行や証券会社、保険会社ではアメリカ人を受け入れていることがあります。ただほとんどの金融機関では、アメリカ人は銀行口座や証券口座の開設を受け入れてもらえないと考えましょう。

それでは、アメリカに住んでいないアメリカ人はどうすればいいのでしょうか。この場合、アメリカ人を受け入れている少数の現地金融機関を利用しなければいけません。

銀行であれば、少ないながらアメリカ人を受け入れてくれる銀行が存在します。一方で証券会社や保険会社の場合、会社の方針によりますが受け入れてくれる確率は低いです。

FATCAは米国からの脱税や資金流出を防ぐ制度

なぜFATCAが存在するかというと、米国からの脱税や資金流出を防ぐ目的があります。全世界に存在する米国人の口座情報を把握することができれば、米国人の脱税を防ぐことができます。

また世界各国の金融機関が米国人の口座開設を断れば、アメリカ人は米国内の金融機関しか利用できません。そうなると、米ドルがアメリカ国内から資金流出するのを防ぐことができます。アメリカとしては、お金を米国内だけに留まらせることができるのです。

事実、アメリカ人がオフショア投資によってタックスヘイブンにある金融商品を購入しようとしたとしても、100%の確率で拒否されます。FATCAが施行されてから、アメリカ人はオフショア投資をすることができません。アメリカ国内の金融商品のみ購入できるため、米ドルの流出は起こりません。

・海外で活躍するビジネスマンにとって迷惑な制度

アメリカに住んでおり、海外投資をしない人の場合だとFATCAは関係ありません。一方で最も問題が大きいのは、海外で活躍するビジネスマンです。

アメリカ人の場合、彼らが現在住んでいる国で銀行口座や証券口座を開設するのは困難です。また資金の移動は自由に行うことができません。住んでいる国の生命保険に加入することも難しいです。他には前述の通り、オフショア投資は確実に断られます。

FATCAは富裕層の資産流出を防ぐ目的で作られました。ただFATCAによって、アメリカ国籍のビジネスマンは負担が非常に大きくなっています。

アメリカの都合を全世界の銀行が受け入れている

重要なのは、全世界の銀行がアメリカの都合を受け入れている事実です。FATCAはアメリカの法律であり、国際法とは関係がありません。本来であればアメリカの法律に従う必要がないにも関わらず、あらゆる金融機関がFATCAの制度に従っています。

これはアメリカが米ドルを発行しており、米ドルが世界の基軸通貨になっているからです。

仮にFATCAに反したために、アメリカから米ドルの取引を禁止されたらどうなるでしょうか。その金融機関は確実に倒産します。銀行や証券会社、保険会社を含め、米ドルでお金を支払いや受け取りをするのはすべての金融機関にとって最重要です。

稀にアメリカから金融制裁を受け、米ドルの取り扱いを行えない国はあるものの、そうした国以外はFATCAに従う必要があるのです。これが、全世界の金融機関がFATCAを従っている理由です。

アメリカは他国と租税条約を結んでいない

なお自国民の海外資産を把握し、脱税を防ぎたいと考えているのはすべての国で共通しています。そのため、あらゆる国で租税条約が結ばれています。

租税条約に関する情報交換規定をCRSといいます。CRSを締結している国同士では、資産が海外であったとしても税務署が口座情報を確認できるようになっています。

例えば日本に住む日本人がシンガポールへ海外送金し、シンガポールで資産運用することでお金を増やした後、日本の税務署に報告しなかったとします。この場合、簡単にバレます。日本とシンガポールは租税条約を結んでおり、外国であったとしても日本の税務署は日本人の口座情報へ簡単にアクセスできます。

一方でアメリカの場合、その他の国とは租税条約を結んでいません。「アメリカにはFATCAがあるため、CRSを締結する必要がない」というのがアメリカの言い分です。

ただ、これは論理破綻していることに気が付きます。FATCAはアメリカ人の脱税や資金流出を防ぐための制度だからです。

アメリカの場合、米国人の脱税や資金流出をFATCAによって防いでいます。一方で他国とはCRSを結んでいないため、アメリカの銀行や証券会社を利用して脱税をしたり、マネーロンダリング(資金洗浄)をしたりしても、アメリカは口座情報を他国に教える必要はありません。

米国人の脱税は許さないが、他国の人がアメリカにお金を送って脱税をするのを黙認しているのがアメリカです。CRSを他国と結んでいないため、アメリカの金融機関を利用した外国人による脱税やマネーロンダリングは頻繁に行われています。

ただアメリカにとってみれば、たとえ脱税資金であったとしても米国内にお金が入ってくるため、アメリカ経済は向上します。本来であればダメですが、アメリカは世界で最も影響力のある国なので、こうした態度が許されています。

グリーンカード保有者や米国居住者はFATCAの対象

それでは、どのような人がFATCAの対象になるのでしょうか。これには、以下の人が該当します。

  • アメリカ国籍をもつ人
  • グリーンカードの保有者
  • アメリカに住んでいる人

アメリカ国籍やグリーンカードをもっている人だけでなく、いまアメリカに住んでいる人も含まれます。つまり、アメリカの居住に少しでも関与している人はFATCAの対象になってしまいます。

当然、これは法人も同様です。アメリカで設立された法人だけでなく、米国人を主要株主とする外国法人もFATCAの対象です。

アメリカ在住者はどうなってもオフショア投資が無理なのか?

FATCAがあるため、アメリカ国籍をもつ人は海外の金融商品を購入できません。それではアメリカ居住者ではあるが、アメリカ国籍をもっていない人はどうなのでしょうか。何をどうやってもオフショア投資を利用することはできないのでしょうか。

これについては、おすすめはしませんがやり方によっては可能です。アメリカ以外の国に住んでいることにするのです。

保有しているのがアメリカのパスポートでない場合、その他の国の本人確認書類や銀行情報をもっているはずです。これらを利用して、タックスヘイブンの金融商品を購入するのです。

例えばオフショア投資商品を購入するとき、アメリカ以外のパスポートを提示し、住んでいる住所の確認ではアメリカ以外の住所が記載されている書類を提出します。そうすれば審査に受かります。

積極的におすすめできる方法ではありませんが、二重国籍または米国籍の保有者でない場合、こうした方法による申し込みが可能です。

米国籍を放棄すれば過剰規制を回避できる

一方でアメリカ国籍を放棄するという方法も可能です。事実、富裕層であるほどアメリカ国籍を放棄する傾向が強いです。また厳しい規制を回避するため、米国籍を放棄する人数は増加傾向にあります。

アメリカ国籍を放棄すれば、FATCAの適用はなくなります。その結果、全世界の優れた金融商品に投資できますし、外国で銀行口座開設を断られることもありません。

有名人であれば、例えば以下の人はアメリカ国籍を放棄しています。

  • エドゥアルド・サベリン(Facebook創立者の一人):米国籍を放棄、シンガポール国籍を取得
  • ティナ・ターナー(歌手):米国籍を放棄、スイス国籍を取得
  • ボリス・ジョンソン(イギリス首相):元々イギリス人だが、二重国籍だったので米国籍を放棄

このように、多くの人がアメリカ国籍を放棄しています。アメリカに住まなくてもビジネス活動を行える人の場合、米国籍を保有するメリットはありません。むしろ、外国で活動するときの弊害となります。そのため、最終手段としては米国籍の放棄を選択できます。

アメリカ国籍の放棄によってアメリカへの所得課税もなくなる

ちなみにアメリカ国籍を放棄すれば、アメリカによる所得課税から逃れることもできます。通常、海外に住んでいれば母国の税制は関係なくなります。例えば日本人がシンガポールへ移住する場合、日本ではなくシンガポールの税制に従います。

日本の税制は関係なく、日本への納税義務はありません。シンガポールにのみ、税金を支払えばいいです。外国に住んでいる人の場合、母国の税制に従わないのが全世界の常識です。

しかし、この常識に従わない国があります。これがアメリカです。アメリカ人の場合、全世界どこに住んでいたとしてもアメリカに納税する義務があります。たとえイギリスやシンガポールに住んでいたとしても、アメリカに税金を支払わなければいけません。

イギリスの首相であるボリス・ジョンソンがアメリカ国籍を放棄した理由がこれです。彼は以前、イギリスとアメリカの二重国籍でした。そのため彼がイギリスの自宅を売却したとき、IRSからキャピタルゲイン税として50,000ドル(約500万円)の支払いを命じられました。

そこで、彼はイギリス外務大臣のときにアメリカ国籍を放棄しました。

アメリカに住み続ける場合、アメリカ国籍は優れています。一方でアメリカ国外に住んでいる人にとって、アメリカ国籍は害にしかなりません。優れた金融商品に投資するという目的だけでなく、無駄な税金支払いを回避するという意味でも、富裕層にとって米国籍の放棄は頻繁に行われています。

アメリカのFATCAの制度を理解する

市場規模が大きく、アメリカではさまざまな金融商品を利用できます。しかし、アメリカ国外にある優れた金融商品に投資することはできません。また、アメリカ国外で銀行口座や証券口座を開設するのは困難です。

この理由がFATCAの存在です。アメリカの法律ではあるものの、全世界の金融機関がFATCAに従っています。そのため海外に住んでいるアメリカ人にとって、非常に面倒な制度といえます。

アメリカ以外の国籍をもっている人の場合、「アメリカに住んでいない」ということにして口座開設を申請することが可能です。一方でアメリカのパスポートのみを保有している人の場合、ほとんどのケースで外国の金融機関を利用できません。その場合、最終手段として米国籍の放棄を選択できます。

アメリカ人の場合、外国の金融機関を利用するときはFATCAを考慮しなければいけません。そこで、事前にアメリカ人を受け入れてくれる金融機関なのかどうかを確認しましょう。またアメリカに住まない場合、米国籍の放棄も視野に入れましょう。